「漫画で学ぶ世界史の制作に協力する」
東京大学名誉教授の羽田正さんの監修で、KADOKAWAから『角川まんが学習シリーズ 世界の歴史』全20巻がこのほど発売されます。羽田さんから頼まれて、私は四つの巻の校閲を担当しました。「4巻(唐とイスラーム教)」「5巻(フランク王国とアッバース朝)」「15巻(世界恐慌と民族運動)」「16巻(第二次世界大戦)」です。
学習漫画で歴史を学ぶという経験は誰しもがあると思います。しかし、今の漫画による歴史は、ここまで進化しているのかと、私はものすごく驚きました。グローバル・ヒストリーを牽引している羽田さんがコンセプトをたてているので、世界の歴史事象の同時代的なつながりが、丁寧に描きこまれています。当然ながら、中国の歴史は中央ユーラシアの歴史との相互関係の中で描かれています。ソグド人などの「国家」をこえて活動する人びとのことにもスポットがあてられています。
私の担当巻で言うと、ムハンマドの活躍を描くという難しさをどう乗り越えるのだろうと、私は心配でした。偶像崇拝を禁止するイスラーム教徒から見れば、漫画が勝手に表情を描くことなど宗教への冒涜になるからです。これはご覧いただければわかりますが、後ろ姿などを描くことによって、巧みに回避されています。
もうひとつの課題は、漫画が「感情を煽る」ことへの警戒です。特に私の担当巻は、アジア・太平洋戦争や第二次世界大戦ですから、戦争への道を一直線に描かないことが大切だと考えました。軍縮や戦争回避への努力も含めて、戦争に転落していった歴史を描かなくてはなりません。この点で作り手の皆さんは、私の提言に真摯に応えてくださっています。
「漫画なんて…」と危惧する意見もあるかもしれませんが、いえいえ、今の漫画はとっても手が込んでおり、自らの表現スタイルへの自制も含めて、多くの人々が関わり、しっかりした作品になっています。
世界史がさまざまな方法によって人々の手元に届き、人々が世界史について考える機会が増えていけばいいと私は願っています。