「読書村の記憶」

 ロシア・ソ連史研究者の富田武さんの『日ソ戦争 1945年8月』(みすず書房、2020年)を書名に惹かれて読みました。アジア・太平洋戦争末期のソ連の参戦を「日ソ戦争」という概念のもとに詳細に跡付けた労作です。

 ソ連軍の圧倒的な近代的兵器を前にして、なすべもない貧弱な装備の日本軍について、ノモンハン事件の教訓を何も学んでいなかったと、著者は厳しく指摘をします。そればかりか、終戦の事実が満洲で戦っていた兵士たちには知らされず、8月15日の後も、戦争は延々と続いていったのです。
 本書「第2章 日ソ八月戦争」の「4 地元民、反乱満洲国軍による襲撃」の冒頭は、なんと南木曽町の前身である読書村(よみかきむら)の開拓団が、地元民の襲撃を受けて100名をこえる人命を失ったという記述から始まります。日ソ戦争の重要な局面に、南木曽町の人々の歴史が関係しているのでした。

 私たちの足元は、いつも世界とつながっています。
 自分たちの幸せは、いつも世界という視野のなかで考えていかなければならないのだと思います。

「読書村の記憶」