「判断力を丁寧に育成するために」

 今年度、蘇南高校は、全国工業高等学校長協会(全工協)の評価手法研究に関わる実践研究校に指定していただき、新しい授業評価のカリキュラムを開発しています。
 今日は、その第1回研究授業を実施し、工業科の藤城先生が新たな試みの授業を行い、全工協の運営委員である小山宣樹先生に指導助言をいただきながら、研修を深めました。

 藤城先生は、まず地元企業・官公庁に「今の時代に入社(入庁)する若者に身に付けておいてほしい資質・能力は何か」を尋ねるアンケートをとりました。木曽郡南部・中津川の30社近くから回答をいただきました。アンケートに項目としてあげた資質・能力は、文部科学省が学習指導要領で重視しているもののほか、OECDの「学びのコンパス」などを参考にしています。
 私たちは、自己肯定感、自己効力感、協調性などが多数になるのではないかと思っていたのですが、最も多くあげられたのは、「判断力」でした。最初、意外に思ったのですが、考えてみれば、唯一解のない現実の中で蓋然性の高い最適解を判断していく「判断力」こそ、コロナ禍のなかで私たちに日々問われているものなのです。
 しかし学習指導要領で「思考力・判断力・表現力」の育成が大切だと言うとき、思考力と表現力の育成については詳しく構想されている一方で、判断力はブラックボックスになっているきらいがあります。

 そこで藤城先生は、判断力を育てるために単元を「3ステップ」で進めるカリキュラムを考え、まずは第一ステップ、次に第二ステップ、そして第三ステップに進みながら、この単元の目標の判断力を見につける組み立てにしました。スモールステップこそ学びの「手すり」です。
 今日は、その第一ステップだったのです。授業の冒頭で、「何のために今日の授業をするのか」を説明し、授業の終わりでルーブリック表を使って自己評価をして「目標がどの程度達成できたか」を自己評価しました。
 何のために今日の学びがあったのかが、生徒にとってきわめて明瞭になり、とても学びやすい、腑に落ちる授業になったのだと思います。

 小山先生からは、「評価というのは特別なことではなく、私たちは日々の授業で何らかの評価を生徒に無意識のうちにやっている。そしてそれがときに生徒を傷つける。ならば生徒を伸ばす評価を自覚的に考え、生徒自身が自分のことを、自信をもって評価できるような授業を創造していくことが大切ではないか」という助言をいただきました。
 心にしみる助言でした。

 「先生の授業で判断力を育てるカリキュラムって、どうなりますか」と私は最近、いろんな先生と対話を重ねています。これはそれぞれの教科をメタレベルで見つめ直す、いい機会になっています。
 唯一解ではなく、最適解をどう判断するかという知的回路が教科ごとにさまざまなのです。多くの要素が複雑にからみあう工業科は、最適解の思考が多いです。理科であれば、生物にその要素が多くなりますが、それでも参照データから最適解はしぼりこまれそうです。地歴公民科の最適解の根拠は多岐にわたり、往々にして倫理的根拠が連動してきそうです。国語科は、限定されたテキストのコンテキストを対象にするため、意外と最適解という発想がうまれにくいということもわかってきました。

 複数の教員で「判断力」育成の試みを行い、それをつなぎあわせれば、魅力的な「タペストリー」ができるかもしれません。それが学問の多元性をメタレベルで理解できるような「タペストリー」になれば、学校の「知の魅力」が構造的にわかるかもしれないと、ワクワクしています。


「判断力を丁寧に育成するために」