「記憶したことを想起して未来につなぐ」

 遅ればせながら、カミュの『ペスト』を読んで、深く共感させられました。

 フランス統治下のアルジェリアのオランでペストの大流行が起こり、都市封鎖されます。その限界状況のなかでのひとりの医師と友人を軸にした人間群像が描かれます。小説の結末は、オランの流行が収束に向かい、人々が再び街頭に出て抱き合い、幸せを分かち合うなかで、犠牲者にとってはペストの悲劇は終わっていないこと、そしてペスト菌自体は死滅しておらず、またいつか悲劇が繰り返されるであろうことが、示唆されます。

 そのなかで有名な次の一節が登場します。「ペストと生のかけにおいて、およそ人間がかちうることのできたものは、それは知識と記憶であった。おそらくこれが、勝負に勝つとタルーの呼んでいたところのものなのだ!」

 経験を記憶すること、そしてそれを想起して次の歴史にいかしていくこと。
 短いスパンではあるけれども、今、まさに私たちは「想起の場」に立っているのでしょう。
「記憶したことを想起して未来につなぐ」