「学びの軌跡の卒業アルバム」

 昇降口ロビーの片隅に、独特な空間ができています。
 3年生のひとりの男子が、これまでの自分の人生で制作した美術作品をアトリエ風に展示するインスタレーション(展示空間まで含めてアート作品にする手法)の作品を発表しているのです。その独特なタッチの絵画作品は、ことに私の目をひいてきました。シュルレアリスムのようなイマジネーションあふれる作品を創造する生徒だったからです。
 すでに美術系の大学にも合格しており、さらに自分の才能を磨いてくれるだろうと、大いに期待しています。

 彼のインスタレーションをみると、3年生は「学びの軌跡」を感じる自分の部屋から外に出て、新しい人生の第一歩を記そうとしているのだということを実感します。進学して新たな学びを始めるためには、「学びの軌跡」を胸に秘めつつ、未知の世界と自分への「飛躍」が必要です。
 この作品は、自分の「学びの軌跡」の卒業アルバムなのかもしれません。

 私自身の高校時代の「学びの軌跡」のインスタレーションはどのような風景だったのか。今となってはおぼろげなのですが、昨晩、論文を書いているときに、ふと「ヴァルネラビリティ」という、高校時代に大江健三郎の小説を読んでいて出会った言葉が、ふとよみがえってきました。その言葉に心揺さぶられた思いも鮮明によみがえりました。
 「学びの軌跡」は、心の片隅にしっかり生き続けているのかもしれないと思ったのでした。

「学びの軌跡の卒業アルバム」