「大きな物語と小さな物語」

 今日も入試業務のため教職員以外は校舎内立入禁止でした。緊張した静かな一日でした。

 14時46分に東日本大震災によって生まれた数多くの悲しみに思いをいたし、教職員全員で南木曽岳の彼方の東北の地に向かって黙とうを捧げました。

 今月下旬の終業式では、私から生徒たちに「大きな物語」と「小さな物語」という講話をするつもりです。とかく私たちは、大きな悲しみをのりこえて復興に向かうという「大きな物語」を定型化して、その枠組みの中で世界を見つめ、人を応援しつつ自分自身のカタルシスを得るということをしがちです。
 しかし東日本大震災で失われた「いのち」と、現在進行形で生き続けている「いのち」の「小さな物語」は、その定型化されたストーリーにはおさまりきれない具体的な表情や多様な出来事に彩られているはずなのです。その無数の「小さな物語」は、私にとまどいや、絶望や、自己批判のような痛みを迫るかもしれない。そんな「小さな物語」にたえず眼差しを注げるような人間でありたいと思います。

 本校の玄関ホールには、「父に捧ぐ」と題された大きなフレスコ画が飾られています。校舎改築の時に、本校OBの三浦秀喜さんがこの素敵な作品を寄贈してくださったのだと同窓会報に記録されています。
 「小さな物語」を前にして、ただただ、祈っている人間の姿が描かれているような気がして、今日はしばらくこの絵の前に佇んでいました。

「大きな物語と小さな物語」