「仕事の意味とパラレルキャリアについて考える」

 蘇南高校では春に「開校記念講演」と題して、活躍している同窓生をお招きして講演会を開催しています。
 今年は私の強い希望で、松本市職員の田中裕子さんに「みんなが笑顔になれる未来を目指して」という講演をしていただきました。松本市の田中さんと本校の各教室をオンラインでむすび、講演の前半と後半で双方向の意見交流をするというスタイルをとりました。

 「あなたの目指す職業を早くに決めて、それに向かって努力しなさい」というような人生を単純化するキャリア教育は、本校ではしないようにしています。高校生にとって大切なのは、どのように人々の幸せと自分がつながるかという「世界への向き合い方」だと思うからです。

 田中さんは、管理栄養士として、人々の「笑顔」を支える方法がとてもたくさんあることに気づき、実践を重ねてきたということを語ってくれました。生徒たちは、「管理栄養士だから人々を幸せにする」というのではなく、「管理栄養士として〇〇のように生きるから、人々を幸せにする」ということに気づいたのだと思います。大切なのは、どのような仕事に就くかということ以上に、その仕事を活かして〇〇をなしとげようとする「思い」なのです。

 今回の講演のもうひとつの柱は、パラレルキャリア(同時並行の仕事)です。人生の仕事の目標は「ひとつ」ではないのです。田中さんは対話のファシリテーターとしても活躍されています。生活の糧を稼ぐ仕事とは別に、人々の幸せのために追求する活動があります。そして職業以外のキャリアがあるからこそ、職業も輝いてくるのです。それが人生というものでしょう。
 キャリアデザインとは、「どんな職業につくか」という問いに矮小化されてはならないのであり、「いくつもの目指したいことを、どのようにバランスをとりながら実現していくか」という夢を育むことなのだと思うのです。
 「俳優になりたい」「作家になりたい」…そんな高校生の夢を、「現実を見なさい」と大人たちは否定しがちです。そうではなく、「俳優とか作家になりたいという夢を実現させるための人生を幾通りも想像してみよう」とアドバイスすることが大切なのではないかと思うのです。

 「無理かなと諦めかけていた夢をやっぱり目指すことにします」と、ひとりの生徒が田中さんへのお礼のあいさつの中で語りました。
 生徒の心に火を灯す講演をしてくださった田中さん、ありがとうございました。
「仕事の意味とパラレルキャリアについて考える」