「本島和人さんの満洲移民研究書を読む」
Posted by 蘇南高等学校長.
2021年09月05日08:49
飯田市歴史研究所の本島和人さんが、『滿洲移民・青少年義勇軍の研究――長野県下の国策遂行』(吉川弘文館、1万円)を出版されました。私は深い感銘をもって読み終えました。見事な業績と言えましょう。
歴史教育の見地から本書の意義を述べます。
第一に、全国一、満洲移民をうみだした長野県の中でも中心的な役割を果たした下伊那地方において、移民を送り出すことの困難さ、壁があったということを本書が明らかにしていることです。それは複数の思惑による送出方法の競合という政策立案者側の問題もありました。しかし、一番に注目すべきは、人々の間に呼びかけに応じないという「非協力」の論理があったということを、川路村の事例を丹念に分析しながら明らかにしていることです。どんなに移民を要請されても従わなかった「生活者の論理」とも言えましょう。
普通の人々の生活者の抵抗に着目することこそ、主権者として市民がどう生きるかを問うことにつながると思うのです。抵抗する側の「多様な」論理を分析することこそ、これまでの歴史教育に不足しがちであったテーマです。
第二に、バス乗り遅れるなという「バスの論理」が満洲移民を推進したのだという仮説に一定の評価を与えながらも、それでは歴史の解明にならないという姿勢を示している点です。私はこの点に大いに共感します。「バスの論理」があったにせよ、政策を推進して人々を満洲に送った「送りだした主体」がいるわけで、その人々の行為を解明しないと「送り出した主体」もまた騙されていたという論理で免責されかねない。
そして「送り出した主体」として本書は、教育者たちの責任、政治家の責任、行政を担う公務員の責任を克明に明らかにしていきます。そしてまた彼らが自らの責任に十分向き合うことをしてこなかったことを、厳しく見つめています。さりながら本書の筆致は、彼らの罪状を暴露して告発するというスタイルではなく、彼らの弱さを自分たちに通じる弱さとして見つめる反省的なまなざしのもとにあるために、断罪スタイルの本になっていない。
その研究者としての姿勢にも私は深く共感しています。
本書に登場する人々は、国や県の進める政策に抱いた「違和感」を自分の「立場の責任」によって覆い隠して、人々を満洲に送り出していきました。
では、私はどう生きるべきか。本書の描く歴史は自分自身を問い直すことを求めています。

歴史教育の見地から本書の意義を述べます。
第一に、全国一、満洲移民をうみだした長野県の中でも中心的な役割を果たした下伊那地方において、移民を送り出すことの困難さ、壁があったということを本書が明らかにしていることです。それは複数の思惑による送出方法の競合という政策立案者側の問題もありました。しかし、一番に注目すべきは、人々の間に呼びかけに応じないという「非協力」の論理があったということを、川路村の事例を丹念に分析しながら明らかにしていることです。どんなに移民を要請されても従わなかった「生活者の論理」とも言えましょう。
普通の人々の生活者の抵抗に着目することこそ、主権者として市民がどう生きるかを問うことにつながると思うのです。抵抗する側の「多様な」論理を分析することこそ、これまでの歴史教育に不足しがちであったテーマです。
第二に、バス乗り遅れるなという「バスの論理」が満洲移民を推進したのだという仮説に一定の評価を与えながらも、それでは歴史の解明にならないという姿勢を示している点です。私はこの点に大いに共感します。「バスの論理」があったにせよ、政策を推進して人々を満洲に送った「送りだした主体」がいるわけで、その人々の行為を解明しないと「送り出した主体」もまた騙されていたという論理で免責されかねない。
そして「送り出した主体」として本書は、教育者たちの責任、政治家の責任、行政を担う公務員の責任を克明に明らかにしていきます。そしてまた彼らが自らの責任に十分向き合うことをしてこなかったことを、厳しく見つめています。さりながら本書の筆致は、彼らの罪状を暴露して告発するというスタイルではなく、彼らの弱さを自分たちに通じる弱さとして見つめる反省的なまなざしのもとにあるために、断罪スタイルの本になっていない。
その研究者としての姿勢にも私は深く共感しています。
本書に登場する人々は、国や県の進める政策に抱いた「違和感」を自分の「立場の責任」によって覆い隠して、人々を満洲に送り出していきました。
では、私はどう生きるべきか。本書の描く歴史は自分自身を問い直すことを求めています。
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