「2年間精魂込めて作った書籍が届く」

 今日、岩波書店から『岩波講座世界歴史 01 世界史とは何か』(小川幸司責任編集、10月5日発売、3200円+税)が届きました。

 この2年間、学校で仕事をしているとき以外は、ほぼすべての時間とエネルギーを費やして作ってきた書物が、ついに刊行されることになりました。本当に寝ても覚めても(夢の中でも)執筆をしてきました。企画段階から数えれば、5年くらいかかった仕事です。

 326ページのうち、私の総説にあたる論文(「〈私たち〉の世界史へ」)が79ページで、4分の1を占めます。3・11の福島第一原子力発電所の放射能を浴びながら救助活動を行った消防士たちが「世界史」をどのように考えたかということから説き起こし、研究者を含めた一般市民にとっての「世界史」とはどのような営みなのかを考えます。そして長い人類の歩みの中で「世界史」がどのように構想され、今の私たちの眼前にどのような課題が見えてきているのかを考察しています。

 私がお願いした研究者・高校教員・博物館関係者15名が、すばらしい論文・コラムを書いてくださりました。すべての論考に共通しているのは、これまで自明だと思ってきた枠組みが、いかに歴史の中で構築され、変化してきたかについての分析です。――時間のとらえかた、空間のとらえかた、ジェンダー、支配する者と支配される者の言説、環境と人間の関係、感染症と人間の関係、歴史認識対立と和解への道などなど。根本に至るように見つめ直すことを心がけました。単なる論文集ではない、書物としてのまとまりを大切にすることを目指しています。

 私にとっても、他の執筆者にとっても、この本を作ることは、険しい地形に一本の道を通そうとする営みに似て、とても苦しいことでした。すぐれた編集者に支えてもらいながら、そして執筆者の皆さんの多大な努力の賜物として、何とか書物にすることができました。ただただ感謝の思いでいっぱいです。
 どうかこの本が読者の皆さんと出会い、新たな対話が生まれていくことを、心から祈っています。
「2年間精魂込めて作った書籍が届く」