「遠い世界と自分の足元」

 この土日は、765ページという圧倒的な分量の杉原薫『世界史のなかの東アジアの奇跡』(名古屋大学出版会、2020年)を読みました。(半分は好奇心、半分は抱えている執筆のため。)
 世界史を国別の歴史の集合体(各国史)として見るのではなく、その時代の横断的なつながりの歴史としてとらえる「グローバル・ヒストリー」が、近年、さまざまに試みられています。杉原さんのこの大著は、その一つの金字塔です。

 経済発展には、西ヨーロッパで始まった「産業革命経路」と東アジアで発展した「勤勉革命経路」の二つがあり、20世紀の後半から後者の東アジア型発展経路が、世界経済において大きな役割を果たすようになったと、本書は大きな見取り図を描きます。
 同時に、東アジア型発展経路が「東アジアの奇跡」を実現したというサクセス・ストーリーだけになっていない点も、本書の魅力です。

 たとえば、日本の高度成長期を通じて形成された国際経済のつながりは、日本が中東諸国から原油を輸入し、その日本の貿易赤字を、欧米諸国に工業品を輸出することで解消するものでした。それに対して中東諸国の貿易黒字は、欧米諸国から武器と工業品を輸入することに利用され、ここに日本・欧米諸国・中東諸国が緊密につながる「オイル・トライアングル」が形成されたと杉原さんは分析します。「欧米諸国の対中東諸国への兵器輸出と日本との間には構造的なリンケージが存在した」という分析です。

 遠い世界(たとえば中東の出来事)が自分の足元とつながっています。大きな世界のつながりのなかで自分の立っている地点を見つめることの大切さを改めて感じた読書経験でした。
「遠い世界と自分の足元」