「ほんたうのほんたうの幸福」

 今、校長室の入り口に飾っている美術は、司修の「エレナ」という作品です。
 大江健三郎の小説には、大抵、司修の美しい装画がほどこされていて、私にとって憧れの画家でした。あるときに「エレナ」(同名の著書が司修にはあります)をギャラリーで見つけて、しかもナンバーが「1/50」だったので購入したのです。
 小さい作品ですが、宮澤賢治の『銀河鉄道の夜』を想起させる幻想的な風景が描かれています。
 
 『銀河鉄道の夜』には、「ほんたうのさいわひ」(本当の幸い)という有名なことばが出てきます。ちなみに、この言葉は宮澤賢治が何度も書き直し、第1稿から第3稿までは「ほんたうのほんたうの幸福」と力を込めた表現になっています。
 それが最終形では「ほんたうのさいわひ」と肩の力が抜けたことばになり、それがかえって宇宙に響くようなイメージを喚起することになったのでした。

 司修の「エレナ」も宇宙を感じさせる作品です。
 本とか絵画が、天体望遠鏡のようになることがあるのです。
「ほんたうのほんたうの幸福」