「ヨーロッパと西アジアをひとつの視野で見つめる中世史」

 『岩波講座世界歴史(第3次)』シリーズが、毎月刊行という驚異的なペースで世に問われています。私の担当した第1巻をキックオフにして、なるべく古い巻から順番に刊行しているのですが、どうしても東アジア・中央ユーラシアを扱った巻が先行してきました。
 理由は明確で、ヨーロッパを独立して扱うことをやめて西アジアとひとつの視野の中で考える巻構成にしたため、ヨーロッパ・西アジアの研究者の皆さんが初めての困難な試みに挑戦しているからです。

 このほど、第8巻「西アジアとヨーロッパの形成8―10世紀」が完成しました。大月康弘さんと清水和裕さんが共同して展望論文(通史叙述)を書いておられます。フランク王国とビザンツ帝国とウマイヤ朝・アッバース朝を同時進行で描いていきますから、この時代のユーラシア西部の歴史の動きがとてもよく見えてきました。ことにビザンツ帝国の時々の動向をおさえることの大切さがよくわかります。
 これまでの世界史の授業だと、西ヨーロッパの祖先をフランク王国に求め、ビザンツは「付属品」のような扱いで、イスラーム王朝は「侵略者」のように語られがちでした。これに対して第8巻では、ウマイヤ朝こそが、エジプト・シリア・イラク・イランをひとつの統治圏としてまとめあげたという意味でアレクサンドロス帝国の再興であり、「古代世界」を最終的に変革する動きの一つであったと位置付けられています。

 高校生にこうした見方を、従来の世界史の見方(ゲルマン民族の大移動で「古代世界」を区切っている見方)と比較させてみたらどうでしょうか。中世なのか古代末期なのかという時代区分を考えることにもなります。

 タテ割の地域史を相対化してヨコにつなぐ歴史を描くと、新しく見えてくるものがあります。
 秋には、私が担当する第11巻「構造化する世界」を世に問うべく準備を進めています。ヨコにつなぐ歴史の醍醐味を凝縮した、新しい近世史を描く巻にしたいと考えているのです。
 (ちなみに立場上、既刊9冊はすべて読んできました。なので頭の中がとても新鮮になっています。)
「ヨーロッパと西アジアをひとつの視野で見つめる中世史」