「特別支援教育の本を読みながらたくさんの想いがわきおこる」

 筑波大学附属大塚特別支援学校の髙津梓先生が、このほど単著『叱らずほめて伸ばす――ポジティブな特別支援教育』(明治図書)をご出版されました。
 表紙には「教師の仕事はほめるが9割」という言葉が刻まれています。

 「第1章 ポジティブな特別支援教育を始めよう」は理論編。とかく教師は「叱る」ことを繰り返すのですが、いくら叱っても子どもは時間が経てば忘れて同じことを繰り返します。すると教師の叱る時間はますます長くなり、子どもの心が離れていくという悪循環がおこります。
――デメリットを生じさせることでやめさせようとするのではなく、その行動が生じやすい状況を予防的に改善し、子どもにとって同じようなメリットの得られる状況や、うれしく感じる状況が生まれやすくするような「望ましい行動」を教え、支援していくことが、未来へつなぐ教育的な対応になると考えます。

というのが髙津先生の基本的なスタンスなのです。

 「第2章 「ほめる」をマスターしよう」は実践編。どのようにほめるのか。実際にほめようとしても、様々な困難に直面するはずで、あらゆるパターンを想定して、それへの対処法を論じているのが圧巻です。もちろんそれは髙津先生のこれまでの教育実践に裏付けられたものであるはずです。私がさらに感心したのは、ほめる教育を持続的に可能にする教師集団作り(つまり学校経営論)についても論じられていることでした。

 「第3章 ポジティブな特別支援教育 実際例」は上級実践編。12人の子どもたちが「ほめる」ことでどのように生長していったのかのケーススタディが論じられています。

 私は、この本を読んで、髙津先生の目指している教育実践は、特別支援教育だけでなく、高等学校の教育が目指すべきものと同じなのだと思い、自分がどのように生きるべきかを学んだのでした。特別支援教育の教室で目指されていることは、とても普遍的な意味をもっているのだと思います。(ちょうど昨日の職員会で、私は蘇南高校の生徒の学習評価は、生徒をほめて自信をつけさせるようなものでありたいですねと、先生方に呼びかけたところです。)髙津先生の実践は、私にとっての指導書のような意義をもっています。
 もうひとつ。私がとても感心させられたのは、一見すると問題行動ばかり重ねている子どもたちが、教師の言うことを聞かないように見えて、本当はなぜそのような行動になってしまっているのか(本当は何を望んでいるのか)を髙津先生が丁寧にくみとって、その真の思いに応えるように「ほめている」ことです。だからほめる教育は、生徒と教師の「対話」になっているんですね。この点でも、髙津先生の学校の教育は、高校教育も大いに参考にすべきであると思いました。

 最後に告白すると、髙津先生は、私の松本深志高校時代の担任クラスの生徒でした。まさに反面教師である私に「これからの教育の姿」をかつての教え子が示してくれました。教え子にどんどん乗り越えられている自分を自覚して、我が身を恥じる思いと、とても嬉しい思いの双方をいだいています。
 教え子は偉大な先生です。
「特別支援教育の本を読みながらたくさんの想いがわきおこる」