「吉田千亜さんの『孤塁』のことばをかみしめる」

 3・11の東日本大震災、それに続く福島第一原子力発電所の爆発事故のとき、福島県双葉郡の消防士たちは、負傷者の救護のほか、制御不能に陥った原子力発電所の冷却のために出動を命ぜられました。
 まさにいのちをかけて職務遂行をすることを余儀なくされたわけです。
 しかしその事実が日本列島の人々に伝えられることはありませんでした。

 そのときひとりひとりの消防士は何を考え、どう行動したのかを、関係者への丁寧な取材を重ねてまとめたのが、吉田千亜さんの『孤塁――双葉郡消防士たちの3・11』(岩波書店)という著作です。このほど岩波現代文庫に収録され、さらに入手しやすくなりました。

 理不尽な状況に立たされた消防士たちは、それでもその理不尽さを真正面から引き受けて、懸命に生きたのでした。
 私は最初にこの本を読んだときに涙を禁じ得ませんでした。そして『岩波講座世界歴史01』の展望論文の冒頭を、この本との対話から始めました。

 文庫版には、「『孤塁』、その後」と題された補章が加わりました。そのなかの次の文章を読んだとき、私は今回も涙がこぼれて仕方ありませんでした。

――建物が解体され、更地が増えた。その一つひとつが、ただの更地ではない。誰かの、家族丸ごとの、人生・暮らしが更地にされている。

「吉田千亜さんの『孤塁』のことばをかみしめる」