「福島の学友との出会い、そして新しい連載のなかで」

 吉田千亜さんの新連載「原発事故12年後の「子どもたち」」が雑誌『世界』(岩波書店)で始まりました。
 私は、吉田さんの紡ぎ出すことばのアウラ(質感)のファンなのです。

 福島県にかかわる「風評被害」を払しょくする動きのなかで、原発事故の被害そのものまで忘却されたり、別の記憶におきかえられてしまったりすることが、今の日本では進んでいます。
 吉田さんは、次世代に原発事故の記憶をラジオで伝えようとしている大学生や、甲状腺がんの告知を受けて手術を受けた青年、そして福島県立ふたば未来学園中学・高校で子どもたちと学ぶ教師などを丁寧な取材を重ねて描き出していきます。

 ふたば未来学園の教師は、林裕文先生です。福島県の中通りの高校で教員生活をしていたときに事故が起こり、その後、どのような思いでふたば未来学園に勤めているのか、女子生徒に「子どもが産めなくなるんでしょうか」と質問された衝撃から、授業の内容を再構築するようになったことなどが、描かれます。

 実は、林先生は、私が親しく学び合う友人です。私が蘇南高校の校長になってからは、本校の探究学習にたくさんのアドバイスをいただいてきました。
 私は世界史の授業の終着駅を、福島原発の事故におき、そのことを拙著でも書いてきました。それを読んだ林先生が飯田市に会いに来てくださり、それ以来の学び合いです。

 今回の吉田さんのルポルタージュでは、林先生が私と出会った場面が描かれ、私の『世界史との対話』の一節が引用されています。
 自分の大切な原点が、他者のまなざしによって描かれることで、私は改めて自分がどう生きるべきかを再確認できたような気がします。

 吉田さんに深い感謝の思いをいだきつつ、これからの連載を楽しみにします。
「福島の学友との出会い、そして新しい連載のなかで」