「終業式・離任式を行い、令和2年度の学びのプログラムを終える」

Posted by 蘇南高等学校長. 2021年03月24日16:37
 青空に南木曽岳が凛々しくそびえたつ今日、令和2年度の終業式を行いました。

 私の講話では、「大きな物語」だけにとらわれるのではなく、「小さな物語」を出発点に考えていくことの大切さについて、最近読む(見る)ことができた3通の手紙を題材にして考えてみました。

 ひとつは大桑村の女性からいただいた、本校の生徒が駅でその方の重い荷物をもって階段を登ったことへのお礼の手紙です。小さな優しさには勇気がいる、その勇気をもっている蘇南高校生は立派だと、温かなエールをいただきました。
 ふたつめは卒業生がそっと置いていった、「先生ありがとうビデオレター」についてです。発案した生徒の小さな優しさを、学年の全員が横につないで、この手紙が届けられたのでした。
 みっつめの手紙は、東日本大震災10年にあたり、10年前の自分に被災者が手紙を書くというコンセプトで編まれた『永訣』(金菱清編、新曜社刊)の冒頭の手紙です。津波でお父様を亡くされた目黒紹さんが、自分の10年間の深い悲しみをこう表現しています。

――もし、あなたがお父さんに「地震が来る。津波が来るよ」と伝えられるなら、真剣に伝えてみてください。あなたのお父さんのことです。真剣に聞いてくれるはずです。もし、あなたが、もし私のことを信じることができなかったり、伝える勇気が出ないのならば、せめてこれだけは3月11日の朝、お父さんに伝えてください。
 「朝ごはんの目玉焼き、今までで一番おいしかったよ。行ってきます」。
 私はこの言葉が言えなかった。日常の中のたった一言、二言をわざわざ伝える必要がないと感じていました。でも、伝えられなかったことを今までずっと後悔しています。私のように後悔することがないように伝えたいこと、伝える必要がないなと思ったことでも全部伝えてみてください。

 悲しみを乗り越えて復興に向かう…という世の中でよく聞く「大きな物語」から零れ落ちる、いつまでも消えない悲しみの「小さな物語」に耳を傾けた時、私たちが人間として何を一番大切にしなければならないかが見えてくるような気がするのです。
 私たちが大切にしたいのは、「小さな物語」なのです。

 校長講話の後、各種検定に合格した生徒、部活動で上位大会に出場した生徒、ベネッセSTEAMフェスタに出場した生徒に拍手を贈り、そして今年度末で離任する12名の先生方の離任式を行いました。先生方もまた、それぞれの「小さな物語」をつむぐ新たな旅立ちです。

 放課後、南木曽岳をながめていた私に、一人の男子生徒がやってきて、「この間は補習にお菓子を差し入れしていただき、ありがとうございました」と声をかけてくれました。
 日常の中の「たった一言」を大切にする「小さな物語」を守っていこうと、決意をあらたにしたのでした。